BUSINESS REPORT VOL.06
トップインタビュー
理念の実現を目指すための事業戦略
スーパーマーケットを通じて生産者と生活者をつなぐプラットフォームを構築してきた当社。ビジョンと今後の事業戦略を中心に、及川 智正 代表取締役会長CEOと、堀内 寛 代表取締役社長が話します。
独自の流通プラットフォームと卸売事業を柱に、
農業を魅力あるビジネスにしていきたい。
理念に込めた想い、事業内容について教えてください。
及川_「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」。これが、私たち農業総合研究所の理念です。「産直流通のリーディングカンパニー」として新しい農産物流通を創造する会社が、農業総合研究所です。農産物の販売支援を行う企業は、どちらかといえば生産者(農家)の目線でビジネスモデルを構築するケースが多いですが、私たちの目標は、消費者と生産者を合わせたすべての生活者を豊かにすることです。そのために解決しなければならない最大の課題が「豊作貧乏」です。「豊作貧乏」とは、豊作で農産物の供給量が増えると価格が下がり、生産者が困窮することを言います。これを解消し、生活者に喜ばれるおいしい野菜や果物をたくさん作った生産者が豊かになる「豊作裕福」にすることが、私たちの使命です。
堀内_それを実現するための柱が「農家の直売所事業」と「産直卸事業」です。「農家の直売所事業」は、全国の集荷場へ集めた新鮮な農産物を都市部のスーパーマーケットに設置したインショップ(農家の直売所)で販売する流通プラットフォーム事業。「産直卸事業」は、生産者から買い取った農産物をブランディングしてスーパーマーケットに卸す卸売事業です。現在(2021年8月末)の登録生産者数は9,762名。農家の直売所を導入していただいているスーパーマーケットは1,774店舗。集荷場は全国に94拠点を数えています。
興味を持たれた投資家の皆さまには、ぜひスーパーマーケットの産直コーナーと青果コーナーに注目していただきたいですね。私たちが扱っている農産物は生産者情報やおすすめレシピなどをパッケージ化しており、誰がどんな想いを込めて作っているのか、どんなふうに食べるとおいしいのかがひと目でわかるように工夫しています。また、生活者である皆さまの評価がそのまま生産者にフィードバックされる仕組みになっているのも当社のプラットフォームの特長です。作る人と買う人が流通を選択できることのメリットだと思います。また、他の農産物直売所、青果市場との違いをきっと感じていただけると思います。
「農家の直売所事業」では新たなコンテナ出荷の仕組みを確立。
「産直卸事業」は市場流通企業や流通加工企業との提携で供給量を拡大。
2021年8月期はどのように評価されていますか。
及川_新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年は、緊急事態宣言の発出による外出自粛によってスーパーマーケットの青果需要は突発的に増大しました。その一方で外食業界向けの野菜や果物は飲食店の休業によって行き場をなくしてしまったので、生産者を救うために何かできないかと、買取支援をはじめ、さまざまな施策を実行しました。そして2021年は先行きが不透明な状況のなか、農産物の供給先を飲食店から小売店へ切り替える生産者が増えたため、小売店への供給量が増え、相場が下がりました。また、気候が比較的安定し、生育が順調だったため豊作となったことも相場が上がらなかった要因のひとつです。生産者にとっては、厳しい1年だったと思います。
そのなかで当社の「農家の直売所事業」は堅調に推移しました。最大のトピックスは、新たなコンテナ出荷の仕組みを確立できたことです。これは、相場の下降時は当社にとっての収入である出荷手数料が減少し、物流費を賄えない場合は、利益率が悪化するという課題を解決するための施策です。従来は料率負担(出荷額の8.5%)だった出荷手数料に個建負担を組み入れ、1コンテナ当たり250円+出荷額の3.5%※とすることで、相場の影響を低減し、物流費をカバーすることが可能になります。コロナ禍で1年遅れになりましたが、今期、本格的に和歌山県内でスタートできたことを喜んでいます。
※和歌山県の集荷場から関西圏のスーパーマーケットへ出荷する場合
堀内_ちょうど1年前にスタートした「産直卸事業」は、立ち上げと同時に富山中央青果株式会社様(以下:富山中央青果)との業務提携を開始しました。市場流通を担う企業・組織との提携は異色と言えるかもしれませんが、当社の拠点よりも集荷力が高い市場流通の拠点を使わせていただくことが、スーパーマーケットへの供給量を増やすための最善の方法と判断しました。
そして、2021年7月には国分グループ本社株式会社様(以下:国分グループ)との業務提携を開始。供給量の増大に比例して負担が増えていく青果物の流通加工(生産者の顔写真や商品情報、レシピの貼付など、農産物のパッケージング全般)機能と、全国的な調達・販売網を活用させていただくことになりました。いずれの提携先にも、当社からは物流・ITプラットフォームやブランディングのノウハウを提供させていただいています。まだ始まったばかりですが、生活者の旺盛なニーズに応えるにはまだまだ供給量を増やす必要があると実感した1年でしたね。
メインターゲットであるスーパーマーケットの流通総額を拡大。
目標は流通総額1兆円突破と「流通の6次産業化」。
2022年8月期の見通しと今後の戦略について教えてください。
堀内_「農家の直売所事業」「産直卸事業」を軸に、日本の青果物の流通量の7割以上を占めるスーパーマーケットでの流通総額を上げることに注力します。そのために農産物を販売できる店舗数を増やし、生活者の旺盛なニーズに応えられるように供給量の拡大に努めていきます。それには物流ネットワークの再編、流通加工機能の強化が不可欠ですので、全国農業共同組合連合会様(以下:JA全農)、富山中央青果をはじめとする全国の市場、国分グループとの連携体制をさらに充実させていきたいと考えています。
及川_目標は流通総額1兆円です。現在の流通総額が約125億円なので100倍近く拡大することになりますが、そのくらいの規模になって初めて、この業界で影響力を持てると考えています。そしてもうひとつの目標が「流通の6次産業化※」です。農業の6次産業化ではなく、青果流通の6次産業化が必要だと考えます。これは、情報を活用して生産者と生活者の新たな関係を作り、需要と供給のバランスを、生産する前から調整していくことを表す造語です。しかしながら、もちろん私たちだけではできません。JA全農や市場、仲卸など流通の事業者、そしてスーパーマーケットとも連携しながら、社会インフラとして進化し続ける農産物プラットフォームを構築していきたいですね。
堀内_当社の時価総額は、流通総額とおおむねリンクすると考えています。株価は将来的な期待値でもありますから、株主の皆さまには、当社の施策・戦略によってこの流通総額がどのくらいまで上がるかをイメージしていただければと思います。そのために今後は、各業務提携先と取り組んでいく事業の目的と手段を明確に発信し、丁寧にご説明してまいります。
※「6次産業化」とは、本来の1次産業(農林水産業)だけでなく、2次産業(工業・製造業)・3次産業(販売業・サービス業)にも取り組み、新たな価値を生み出すことです。1次産業の「1」×2次産業の「2」×3次産業の「3」をかけ合わせると6になることから名付けられました。
こんな兄が欲しかったと思いながら付き合いを続けています。(及川)
彼は勢いと情熱で多くの人を巻きこんで大きなビジネスを創るリーダー。(堀内)
農業総合研究所は2トップ体制ですが、お二人はそれぞれどのような存在なのでしょうか。
また、お互いをどんなリーダーだと思われますか。
及川_私の方が年下なので、こんな兄が欲しかったと思いながらお付き合いをしています。そのなかでいつも感心しているのは、説明上手なところ。どれだけ煩雑な内容でも、相手に応じて適切な言葉を選び、順序を整理して伝えることができる。性格が大雑把な私が苦手としていることを率先してやってくれる社長ですね。
堀内_彼が大雑把に見えるのは、洞察力が鋭く、自身の嗅覚を信じて迷わず行動できるからなんです。コストをかけずに最短コースを突っ走るので時として失敗もありますが、勢いと情熱で多くの人を巻きこんで大きなビジネスを創り、失敗など忘れさせてしまう。それは私にはとてもできないことなので、一緒にいて楽しく、心地いいのでしょうね。
及川_似たものどうしではないから、うまくいっているのかもしれません。農産物はお互いにとって大切な商品ですが、好きな野菜は違いますしね。
堀内_ずっと好きなのは4月に穫れる白アスパラですが、この1年で最大の衝撃は白茄子。ステーキにすると信じられないほどジューシーですよ。及川さんはブロッコリーでしたよね。
及川_そうです。塩ゆでが最高です。苦手だという方にはぜひ新鮮穫れたてを食べていただきたい。トウモロコシのような甘みがあるんですよ。
生産者と生活者のため、農業にすべての情熱を注ぐ。
株主・投資家の皆さまには厳しくも温かい目で見守っていただきたい。
最後に、株主・投資家の皆さまへメッセージをお願いします。
及川_農業は気候変動の影響を受けやすく、そして古くから続くビジネスで構造が複雑なため、変革に時間のかかる業界です。それを踏まえて私たちがやるべきなのは、情熱を注ぎ、今の時代に合致した農業を構築・実践していくことです。今後も一番の強みである現場力を活かし、生産者、生活者、小売店やJA全農、市場とのコミュニケーションを深め答えを探し求めていきます。
Passion for Agriculture
〜農業に情熱を〜
当社の合言葉です。誰にも負けない情熱を持って、これからも農業界のために邁進してまいりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
堀内_奇をてらい、小手先の施策で仕組みを変えようとするのは、農業に関わるすべての人のためにならないと考えております。株主・投資家の皆さまにはぜひ、そうした視点で当社の挑戦を見守っていただきたいと思います。たとえ想定外の結果が待っていたとしても、その取り組みの意図をご理解いただけるように情報を開示してまいりますので、今後ともご支援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
新鮮でおいしく、お手頃な
農産物を一人でも多くの方に
間正農園さん
埼玉県/ナス他
農総研とは2014年からのお付き合いで、ナスを中心に、玉ねぎや青梗菜、ブロッコリーやカボチャなど、生産物の約7割を「農家の直売所」向けに出荷しています。一般的な流通ルートと比べて利益が出ること、そして販売先の選択肢が多いことが一番の魅力です。また、農産物の品目や規格・数量などに制限がないので、生産した農産物を余すことなく出荷することも可能で、やり方(工夫)次第で収益を増やすことや、フードロスの削減につなげることもできます。今の時代にマッチした持続可能なプラットフォームではないでしょうか。これからも、農総研のプラットフォームを活用することで、新鮮でおいしい農産物を、少しでも安価な価格設定で、一人でも多くの方にお届けしたいです。
ハーブの魅力を和歌山から
全国に
いまきファームさん
和歌山県/ハーブ・ハーブ加工品
和歌山県でハーブ農園を営んでいます。バジルやミント、レモンバーベナなどをはじめ、数十種類のフレッシュハーブを都市部のスーパーマーケットやレストランに出荷しています。徹底した温度管理と丁寧な収穫や加工(パッケージング)にこだわることで、新鮮で香り豊かなハーブの生産を実現しています。多くのレストランでご好評をいただいておりますが、日本の食卓ではなかなか見かけることのない野菜でもあるので、一人でも多くの方にハーブの魅力を知っていただくためにも、取引店舗数の多い農総研に出荷しています。生産へのこだわりや想いをパッケージやポップのデザインに込めてお届けできる販促も大きな魅力です。日本にはまだ「ハーブの産地」と呼ばれる地域はありません。農総研を通じて和歌山県産のハーブを日本全国津々浦々に広めたいです。
トピックス
国分グループとの業務提携を開始
国分グループが保有する全国の調達・販売網や青果物の流通加工機能と、当社が保有する農産物流通プラットフォームや物流ネットワークを相互に活用することで、「物流」「販路拡大」「販売促進」分野での協業を推進し、バリューチェーンの構築を目指します。持続可能な食糧生産や永続的な農産業の仕組みを作ってまいります。
JR東日本と農産物流通プラットフォームの共同運用開始
JR東日本との業務提携により鉄道インフラを活用した新しい農産物流通プラットフォームの共同運用を開始いたしました。駅および駅周辺施設などを活用した農産物集荷場「JRE農業ステーション」の整備、JR東日本グループが運営するECサイト「JRE MALL」内に農産物販売ショップ「農家の直売所」の出店、農産物の列車輸送(実証実験)と都市圏のエキナカでの販売などにより、新鮮な農産物をお届けいたします。
農総研の産直農産物を購入できるECサイト
福岡ソノリク関西物流センター内に「神戸センター」を開設
物流センター機能の拡張と西日本エリアの農産物輸送網の効率化を目的に、福岡ソノリク関西物流センター内に「神戸センター」を開設しました。農産物の鮮度維持および貯蔵管理機能の向上や加工機能の拡張などにより、これまで以上に多様な品目・形態の商品を受け入れることが可能になり、拡大するスーパーマーケットからの農産物需要に対応いたします。