BUSINESS REPORT VOL.10
上場10年目のトップ対談
代表取締役会長CEO 及川 智正 × 代表取締役社長 堀内 寛
農業を儲かる仕組みに~中期経営計画に込めた決意~
近年、相場高の影響によってスーパーマーケットにおける青果物の単価は上昇傾向にあり、当社の収益性は各種施策との相乗効果で向上しつつあります。一方で、農業従事者の⾼齢化や耕作放棄地の増加、⾷料⾃給率の低下といった業界全体の課題の根幹である「儲からない」ことは改善されていません。この現状を変えるため、当社は「中期経営計画 2025-2027」を策定いたしました。その内容や2025年8月期の振り返りについて、及川智正代表取締役会長CEOと、堀内寛代表取締役社長が話します。

産直委託モデルの展開と
AI需要予測システムの開発
この2つを柱に課題を解決して
農業を儲かる仕組みにする
2025年4月に「中期経営計画 2025-2027」(以下、「中計」)を公表されました。
策定の背景と内容を教えてください。
堀内_流通総額や売上の伸長だけではなく収益率の向上にも取り組む。その決意を株主の皆様にきちんとお伝えするには中計がベストだと考えており、上場10周年を前にしたこのタイミングで公表させていただきました。
及川_農業総合研究所が今後、どのように成長していくのか。そのイメージを社内で共有することも目的の1つでした。「私たちの会社は皆さんの想像以上に成長しているよ」と伝えたい、そんな想いもありました。テーマは「農業を儲かる仕組みに」。これは我々のミッションとして位置づけていることですが、持続可能な仕組みの構築を目指すにあたり、ステークホルダーの皆様に改めて、課題と取り組みをお伝えしたいと考え、中計のテーマとさせていただきました。農業が儲からない理由は、需給のバランスが崩れているからです。異常気象や気候変動などの天候要因を除けば、これに尽きます。この課題を解決するため、私たちがこの中計期間に重点的に取り組むことは2つあります。1つは産直委託モデルの展開。生産者、当社、スーパーが一体となって生活者に喜んでいただける商品をお届けし、売上をシェアするビジネスモデルです。そしてもう1つが、AI需要予測システムの開発です。こちらはNTTアグリテクノロジー様と共同で進めている取り組みで、農産物の流通量と販売価格の適正化の実現を目的としています。

堀内_これらの取り組みによって、需給の見える化と需給を繋げるプラットフォームの構築を目指します。NTTアグリテクノロジー様とはフードロスの削減とこのプラットフォームでの販売を見据えた加工食品の共同開発も進めており、その第1弾として3種類の国産乾燥野菜を『野菜を食べるシリーズ』として商品化。2025年3月より、当社が展開する関東圏のスーパーマーケットで販売を開始しました。
計画は市場流通との協業が前提
手応えを感じられたので
力が湧いてきた
中計に対する社内外の反応はいかがでしたか?
堀内_社内に向けては、事前に周知したうえで東京と和歌山の社員総会で改めて説明しました。質疑応答では、いくつもの質問が上がり、社員の疑問点を認識し、対話することができました。私からは「一緒にチャレンジしてほしい」と伝えました。ビジネスは常にチャレンジであり、たとえ結果が伴わなかったとしても学ぶこと、得るものは必ずあるから、始めてみましょうと。
及川_同じ人数で新たなビジネスを始めるには、従来の業務を効率化する必要があります。簡単ではありませんが、現場の社員がこのチャレンジを楽しいと思える仕組みや風土をつくっていきたいと考えています。
堀内_社外では、市場流通に関わる方々の反応が想像以上によかったですね。需給の見える化と需給を繋げるプラットフォームの構築は市場流通との協業を前提としているので、直接、計画をお話しして好感触を得られたのがうれしく、力が湧いてきました。機関投資家の皆様、金融機関の皆様には以前からご説明させていただいているので新たな驚きはなかったかもしれません。それでも中計として公表したことで、我々の想い、覚悟を受け止めていただけたと思っています。
生活者の皆様に
安心と喜びをお届けする
流通総額と営業利益が拡大し、
過去最高を更新
2025年8月期を振り返ってください。
及川_猛暑や天候不順、物価高。生産者、生活者の双方にとって厳しい状況が続くなか、青果物流通を支えるインフラとしての役目をしっかりと果たすことができたと思います。
堀内_よかったのは流通総額と営業利益が共に拡大したことです。昨年度までは生活者への貢献度は流通総額の伸長を基準に判断していたのですが、利益が伴わないうちは安心をお届けしているとは言えないと判断し、2025年8月期は営業利益の拡大にポイントを置いてさまざまな施策を実行しました。その結果、過去最高の営業利益を更新しましたので、生活者の皆様に安心をお届けし、喜びを感じていただくことができたと考えています。一方、課題として残ったのは物量の季節変動への対応です。物量が多いときと少ないときの差をいかにして縮めるか。天候に左右される農業では永遠の課題と言えますが、産直委託モデルの展開、AI需要予測システムの開発を進めながら対応力を高めていきたいと思います。

及川_売れ残りの数がかなり減ったことも大きな成果です。フードロスの削減は当社の使命の一つですので、今後も買っていただくための創意工夫を続けていきます。また2025年8月期は、コロナ禍が明けてから初めての生産者大会を千葉県、和歌山県、兵庫県で開催しました。生産者の方に直接、中計の説明をさせていただき、さまざまな要望を話していただいたことで、農業を儲かる仕組みにしたいという想いがより強くなりました。
創業時を知る生産者の自慢のみかんを
株主優待として皆様に
お届けできることがうれしい
株主還元・株主優待について教えてください。
堀内_中計期間の総還元性向は30%といたしました。3年後の流通総額300億円、営業利益4.5億円という目標を掲げた以上、株主還元方針も数値を明確にする必要があると考え、設定させていただきました。現在は、自社株買いと優待制度を合わせて1.7億円程度で半分くらい進捗しました。
及川_株主優待制度は、株主の皆様のご支援に感謝するとともに、当社株式への投資の魅力を高め、より多くの皆様に中長期にわたって保有していただきたいという願いを込めて新設しました。毎年8月末時点で1,000株以上を保有する株主様に農家直送みかん(5,000円相当)を贈呈。2026年8月末時点で1年以上継続保有の株主様には、みかんに加え新米(5,000円相当)も贈呈いたします。当社らしい和歌山の優待品、と考えた結果、和歌山県海南市の中西農園さんのみかんをご提供いただくことにしました。私がこの会社を設立するずっと前、個人で青果店を営んでいた頃からお世話になっている方です。多くのファンを獲得してきたみかんを、株主の皆様にもぜひ味わっていただきたいですね。

及川_設立から間もない頃、当社は綱渡りのような経営を行っていました。生産者の信頼を得ることもままならない状況のなか、周囲の反対を押し切って出荷してくれたのがこの中西農園さんでした。先日、この件でお会いしたときは当時の思い出話をして「本当によく頑張ってきたよね」と労いの言葉をいただきました。その方のみかんを今、こうして株主の皆様にお届けできることに、人の縁を感じています。優待制度新設の公表後は株価が上がり、市場の注目度が高まりました。現場のスタッフもやりがいを感じてくれていると思います。
2026年6月で上場10周年
次の10年も着実に成長する姿を
お見せします
株主・投資家の皆様へメッセージをお願いします。
及川_当社は2016年6月、農業分野として初めて東京証券取引所グロース市場に上場し、来期で上場10周年を迎えます。市場の注目を常に浴びるような会社ではありませんが、株主の皆様には着実に成長する姿をお見せできるよう、泥臭く歩んでいきたいと思っております。
堀内_この10年間、心強かったのは、長く株式を保有していただいている個人投資家の皆様の応援や激励の声でした。それは金融ポータルサイトやSNS等を通じて届いており、お会いしたことがなくてもいつも身近に感じていました。和歌山市の本社で開催する株主総会では毎年、遠方からご参加いただいている方と対話する機会もあり、そのたびに期待に応えたいという気持ちを強くしています。次の10年も皆様に信頼され、応援していただけるように成長してまいります。

トピックス
自己株式の取得及び
株主優待制度の新設
株主還元施策の一環として、2025年1月に約7,000万円、同年7月に約9,000万円の自己株式の取得を行いました。また、同年7月には株主優待制度の新設を発表いたしました。2025年8月末日を基準日として1,000株以上の株式を保有の株主様へ農家直送みかん(5,000円相当)、2026年8月末日を基準日として1,000株以上の株式を1年以上継続保有された株主様へみかんに加え新米(5,000円相当)を贈呈いたします。
NTTアグリテクノロジーと
資本業務提携契約を締結
2024年9月に株式会社NTTアグリテクノロジーと資本業務提携契約を締結し、食品加工品の開発・流通・販売、AI需要予測システムの開発・展開、新たなビジネスモデルの検討・推進を行うことに合意いたしました。2025年3月には国産乾燥野菜「野菜を食べる」シリーズの販売を開始いたしました。今後も双方の強みを掛け合わせ農産物を通じた新たな価値の創造を進めてまいります。
クボタとの連携協定を締結
2025年5月に株式会社クボタとの連携協定を締結いたしました。提携により、農機シェアリング事業への参加や、「おいしさ」を伝える新指標の検討を開始いたしました。今後も日本の農業の持続的な発展に向け、両社が保有する技術・ネットワーク・情報・ノウハウを活用し新たな価値の共創を目指してまいります。
生産者大会を開催
2025年5月・6月に生産者への感謝をお伝えするため、「生産者大会2025」を開催いたしました。当社と日頃からお取引実績のある生産者の方を中心にお招きし、当社より今後の事業方針の説明や生産者の生産実績の表彰を行いました。また、会食を通じて生産者同士の情報交換等も行い、懇親を深めていただきました。