BUSINESS REPORT VOL.08
ハウス食品グループ本社×農総研の対談
農産物を通じた新価値の共創~ハウス食品グループ本社×
農業総合研究所~
農業総合研究所~
健康志向の高まり、中食・内食市場の拡大など、コロナ禍はライフスタイルの変化をもたらし、その新たなスタイルは今後も続くことが予想されます。一方で世界的なエネルギー価格の高騰、急激な円安の進行など、経済環境はめまぐるしく変動し、生活者に大きな影響を与えています。そのような中、株式会社農業総合研究所はハウス食品グループ本社株式会社と資本業務提携契約を締結いたしました。浦上博史代表取締役社長、佐久間淳取締役と、農産物を通じた新価値の共創について話し合いました。
生産者やお客様だけではなく、
周囲へも視野を拡げ社会的責任を果たしていきたい
最初に、両社の企業理念について教えてください。
及川_農業総合研究所のビジョンは「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」。これは創業以前、私が農業従事者だった頃から何度も自問していた「農業は誰のためにあるのか?」という問いに対する答えです。農業は、生産者の方を向きがちなところがありますが、私は食べる人を幸せにしたくて農業に携わってきました。そして、日本や世界から農業がなくならない仕組み、未来永劫、農業が持続する仕組みを構築して生活者を豊かにするためにこの会社を立ち上げました。その想いは16年経った現在も変わらず当社のビジョンであり続けています。
浦上_ハウス食品グループは創業100周年にあたる2013年に「食を通じて人とつながり、笑顔ある暮らしを共につくるグッドパートナーをめざします。」というグループ理念を策定しました。この理念には「お客様への責任」「社員とその家族への責任」「社会への責任」の3つを、企業市民として果たしていくという想いが込められています。先ほど、及川会長が農業は生産者の方を向きがちなところがあると言われましたが、それは食品メーカーからお客様に対しても同様です。お客様の方だけを向くのではなく、社員とその家族、社会へと視野を拡げて人と人をつなげていく存在でありたいと考え、グループの理念としました。
及川_ハウス食品グループはグループ理念だけではなく、社是と創業理念も掲げられていますね。
浦上_おっしゃるとおりです。弊社の理念体系は、会社が持つ「2つの顔」をベースに構成しています。1つは先ほどお話しした「グループ理念」。もう1つが、社是・社訓であり、グループで働くすべての人の行動規範としての「ハウスの意(こころ)」。その背後には、「日本中の家庭が幸福であり、そこにはいつも温かい家庭の味ハウスがある。」という創業理念があり、ハウスというブランドが初めて世に出たときの想いを語り継ぐためのシンボルとして位置づけています。
及川_100年を超える歴史を誇る企業だからできることですよね。私が創業以前から掲げてきた「持続可能」という考え方は、テーマが大き過ぎて現場の社員たちは仕事につなげにくい部分もあるのかなと思うことがありますが、浦上社長がグループ理念策定に取り組まれた際、創業者の想いは変えないまま、創業理念を軸にした新たな理念体系を構築したように、弊社も新たな理念を策定するのではなく、今の理念をさらに追求していく必要があると感じました。
浦上_農総研さんのビジョンは社会課題解決型。ビジョンを変えるとすれば課題が解決できたときがその時期かと思いますが、求心力にも関わることですので、タイミングは慎重に見きわめる必要がありますね。
「付加価値野菜系」の代表は
涙が出にくく、
辛みのないタマネギ
「スマイルボール」
ハウス食品グループの「付加価値野菜系バリューチェーン」について具体的に教えてください。
浦上_バリューチェーン(以下VC)は、原材料の生産からお客様の口に入るまでの一連の価値連鎖を指します。ハウス食品グループは「スパイス系」「機能性素材系」「大豆系」「付加価値野菜系」を柱に4系列VCを定め、グローバルな成長実現に取り組んでいます。「付加価値野菜系」はこの中で最も新しくチャレンジ要素の高いVCで、その代表が10年以上も研究を重ねて2015年に販売を開始した「スマイルボール」。包丁で切っても涙が出にくいタマネギです。
佐久間_「ハウスがなぜ野菜を?」というご質問をよくいただくのですが、きっかけはレトルトカレーの製造過程で何度かタマネギとニンニクを合わせて焙煎すると緑色に変色するという事象があったことです。その要因を調査したところ、タマネギの中に催涙成分の生成にかかわる未知の酵素(催涙因子合成酵素)があることが分かりました。そこでこの酵素の働きに着目して選抜育種を進めた結果、本来のおいしさを損なわずに催涙成分の生成を抑制した画期的なタマネギを作り出すことができたのです。タマネギと涙の関係を解き明かしたこの取り組みは2013年のイグノーベル賞を受賞しました。
新たな付加価値を持った野菜を
商品化して
生活者の皆様にお届けする
2023年4月に締結された資本業務提携契約について、その背景をお聞かせください。
佐久間_もともとハウスが得意としてきたのは川下(販売)の領域。川上(生産)については得意としていないところがありましたが、近年はスマイルボールやハーブ等の生産を行い、形にすることができるようになってきました。しかしそれらを届けていく流通の領域についてはほとんどノウハウがありません。付加価値野菜系VCというのはハウス単独でできることではないと思っていたところ、農総研さんとの出会いがありました。
堀内_我々は流通の中で材料そのものを販売する企業だと思っています。野菜や果物の特徴を明確にすることで、店頭でお客様が手に取りやすい商品づくりをしているのですが、その中での課題が、お客様にその日の食卓の様子と、材料を調理して実際に口に運ぶまでをイメージしていただく手段がなかなか見つからなかったこと。試行錯誤を続けていた中で、そこを解決していけるパートナーとしてご紹介いただいたのがハウスさんでした。
浦上_スマイルボールのような新たな付加価値を持った野菜を商品化して生活者の皆様にお届けすることは、農総研さんの理念、ビジョンとも合致していると感じました。
野菜を商品化した経験がない私たちにできることは限られています。その中で、農総研さんのような良いパートナーに巡りあえましたので胸を借りるつもりでやってみようと考え方も新たに模索し始めたところです。
青果流通のハードルは
物流の効率化と購買意欲の向上、
協働を通じて越えていきたい
現在の取り組みと今後の展望について教えてください。
佐久間_資本業務提携してから約半年。両社のリソースを活用した野菜ブランディングの検討、具現化、そして農総研さんの顧客接点を利用した販売・マーケティングの実践は順調に進んでおり、いよいよ生活者の皆様に「スマイルボール」をお届けできる日が近づいてきたことを実感しています。
堀内_当社と取引のあるスーパーマーケットでのトライアル販売はとても好評で「またやってください」「次はいつですか」という声がたくさん届いています。年内には本格的に販売を開始したいですね。
佐久間_「スマイルボール」は現在、流通しているタマネギよりも天候の影響を受けやすい面があって、品質の安定化と数量の確保は引き続き課題となりますが、農総研さんの力をお借りしてブランディングを行い、認知度を高めていきます。また、ハウス食品グループは2018年1月に設立したコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「ハウス食品グループイノベーションファンド」(2023年1月には2号ファンドを設立)の枠組みを活用し「食で健康」領域における国内外の優れたベンチャー企業への投資を行っています。その中で野菜の生産と深く関わっている企業とのつながりも生まれていますので、コラボレーションしながら、新しい価値を生活者へ届けられるようチャレンジを続けていきます。
及川_青果流通のバリューチェーンでお客様の口元までお届けするためのハードルは2つあると思っています。1つは物流。青果物は重量当たりの単価が安いため、流通は人件費を含む物流コストの割合が高くなります。また、直前まで輸送量が分からない中で鮮度を維持しながら迅速な輸送を実現するという難しさもあります。もう1つは購買意欲を高めること。たとえば生産者情報やおすすめレシピなどをパッケージ化し、どんな想いを込めて作っているのか、どのように食べるとおいしいのかがひと目で分かるように工夫することもその1つ。どちらも簡単ではありませんが、この2つのハードルをハウスさんと一緒になって越えていきたいと思っています。
浦上_そうですね、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
及川_今後互いのリソースを活用し、ハウスさんのお力添えもいただきながら取り組みを進めていく中で、より生活者を豊かにするための価値を提供していきたいと思っています。こちらこそ、引き続きよろしくお願いいたします。
商品紹介産直卸事業
産直卸事業「世界農業遺産シリーズ」
ブランディング
国際連合食糧農業機関(FAO)により「世界農業遺産」として認定されている農産物をブランディングしたシリーズです。
第1弾は熊本県阿蘇地域のアスパラガス「阿蘇パラ」。熊本県阿蘇地域の「阿蘇の草原の維持と持続的農業」が世界農業遺産に認定。まだ認知度が低い「世界農業遺産」というものがあること、阿蘇地域が「世界農業遺産」に認定されていること、そこで育ったアスパラガスがあることをまずは生活者に知ってもらうことを第一に考えたブランディングです。
第2弾は、山梨県笛吹市一宮町で採れた桃を「山梨県 いちのみやの賜物(たまもの)」の名称でブランディング。峡東地域(山梨市、甲州市、笛吹市)の「峡東地域の扇状地に適応した果樹農業システム」は昨年世界農業遺産に認定されました。「阿蘇パラ」に続き、世界農業遺産ブランドの認知と浸透を目指して作った商品です。
登録生産者の声農家の直売所事業
農家の直売所事業「あのや菜園」
甘みが強いこだわりトマト、
苦手な方にこそ食べてほしい
あのや菜園さん
千葉県/フルティカ(ミディトマト)
夫婦でフルーツトマト(フルティカ)を生産しています。
養液土耕栽培で水分量をコントロールしながら栽培しており、木で真っ赤に色付いてから収穫をしているため市場流通品より甘い状態で出荷ができています。
「農家の直売所」への出荷では自分でデザインを手がけたオリジナルのブルーのシールを商品に貼り付け、お客様の記憶に残る販促面での工夫をしています。また、価格を自由に決められるため、最近の物価高に悩まされる中でも販売価格に反映して対応しています。
農総研の仕組みで特にありがたいのは生産量が安定しない小規模農家にとって、収穫した分だけ出荷ができる点。現在は全体の約9割を「農家の直売所」向けに出荷しています。
「トマトが食べられなかった子どもがあのや菜園のトマトなら食べられるようになった!」というお声もたくさんいただいているので、今後も「農家の直売所」コーナーを通じて是非多くの方に商品を届けていきたいです。
農家の直売所事業「NF Farm」
有機野菜を手ごろな価格で
多くのお客様に届けたい
NF Farmさん
兵庫県/なす、ピーマン、にんじん他
有機栽培の考え方に感銘を受け、兵庫県で有機農業を始めました。
なす、ピーマン、にんじんなどをはじめ、十種ほどの有機野菜を「農家の直売所」向けに出荷しています。
収穫物が増えて地元の直売所だけでは対応できなくなったことをきっかけに農総研を利用するようになりました。地元以外の様々な店舗で多くのお客様に手に取っていただけるところが魅力だと思います。
また出荷後最短翌日に店舗に並ぶので、えぐみが少ないという特長を持つ有機野菜を鮮度の高い状態で提供することができています。
有機栽培は従来型の栽培と比較して収穫率が下がりやすいため販売価格も割高ですが、手ごろな価格で提供することで幅広いお客様に日常的に食べていただきたいと思っています。今後も、農総研のプラットフォームを活用し安心安全で良質な有機野菜を届けていきたいです。
※有機栽培:化学的に合成された肥料及び農薬を使用せず、食の安全や環境に配慮した栽培方法のこと。オーガニックとも呼ばれる。
トピックス
ドラッグストア大手・コスモス薬品での販売を開始
近年の生活者の価値観や行動様式の多様化に対応すべく、株式会社コスモス薬品での販売を開始いたしました。コスモス薬品の180店舗(2023年8月末時点)で当社の農産物が販売されており、今後も販売店舗は順次拡大予定です。当社の持続的発展及びビジョン実現のため、これからも新たな販売チャネルの拡大を推進してまいります。
ブックオフにて「規格外」みかんの詰め放題を実施
2023年1月、ブックオフコーポレーション株式会社と協業し、規格外の有田みかんを詰め放題で市場価格よりも手ごろな価格で販売いたしました。本取り組みはSDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」の達成において非常に重要な役割を担っていると考えております。今後も食品ロス削減の活動に一層貢献してまいります。
ベルグアースと共同で「接ぎ木苗」の生産過程で発生する
余剰苗の販売を開始
「接ぎ木苗」生産量日本一のメーカーであるベルグアース株式会社と共同で、当社の登録生産者向けに「接ぎ木苗」の販売を開始いたしました。本取り組みでは、受注生産における生産過程で発生する余剰苗を、品目や品種差をなくした特別価格にて販売いたしました。