BUSINESS REPORT VOL.09
NTTアグリテクノロジー×
農総研の対談
両社が描く農業の未来~NTTアグリテクノロジー×
農業総合研究所~
農業総合研究所~
近年、日本の農業分野では、農業従事者の急速な減少、高齢化に伴う担い手の確保や技術継承、食料自給率の低下など、食の安定供給に対するリスクが課題となっています。そのような中、株式会社農業総合研究所は、株式会社NTTアグリテクノロジーと2024年9月に資本業務提携契約を締結いたしました。株式会社NTTアグリテクノロジーの酒井大雅代表取締役社長、小林弘高取締役と、農業の未来について話し合いました。
需要と供給のバランスを
IoTやAIを
活用して整え、未来へとつなぐ
農業の課題と農業の未来について、現在の見解をお聞かせください。
及川_従来、弊社が課題意識を持っているのが需要と供給のバランスです。農産物の価格高騰が起こると生活者は苦しい一方、生産者の収入は増える。反対に価格破壊が起こると生活者は助かるが生産者が疲弊してしまう。そのどちらにも偏ることなく生産者と生活者が一番喜ぶ価格帯を探っていく、要するに需給バランスを整えることが我々の使命だと思っています。農業総合研究所のビジョンは「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」ですが、NTTアグリテクノロジーさんのミッションは「私たちは、食と農の分野において、新たな可能性と価値を見出し、持続可能で豊かな社会を創ります」。両社には農業において共通する想いがあるように感じており、NTTグループさんがどのような目的や課題意識を持たれて農業専業会社を設立されたのかという点に、以前からとても興味がありました。
酒井_NTTアグリテクノロジー設立の目的は、食糧自給率の低い日本で食の安定供給に貢献することです。日本の農業人口は減少を続けており、V字回復は望めませんが、NTTグループがこれまでに培ってきたデジタル技術やIoT、AIのノウハウを活用すれば農業で役割を持つことができる、そんな想いで設立しました。きっかけは、地域の皆様の声です。訪れた地域の皆様に、NTTグループに対する期待や要望をうかがったところ、「一次産業振興に力を貸してほしい」、それも農業分野に対する声が圧倒的に多かったのです。NTTグループは「通信」というインフラの整備維持を担ってきた会社です。農業も地域の大切なインフラであることからシンパシーを感じていただいたのかもしれません。
小林_NTTグループの中でもNTT東日本とNTT西日本は「地域会社」と称されるほど、地域密着型の事業を継続してきました。だからこそ、地域の皆様にご期待いただけたのだと思います。食や農業も、インフラのように生活にあって当たり前のものであり、通信インフラ同様未来へつないでいくことが使命と考えています。
酒井_企業として社会的責任を果たしたいという想いもあります。NTTグループの社員数はグローバルで約35万人。社員の家族と取引先の人数を含めれば優に100万人を超えるほどの規模です。社会的インパクトを与えている企業のため、経済安全保障や経済成長などに直結する大きな役割を担っていくことは使命だと思っています。その中で我々は食農分野の未来を考えようとしています。
堀内_食農分野に対するNTTアグリテクノロジーさんの想いの強さは、初めてお会いしたときから伝わってきました。流通に携わる弊社は、日頃より市場内の需要と供給の不均衡という農産物流通における課題を意識していましたが、NTTアグリテクノロジーさんが早くも核心を突き、現実的かつ具体的な解決策をお持ちだったことに驚きました。同時に、目指すところは同じだと確信しました。
酒井_我々は農総研さんが産直流通の先駆者として「生産者のために何ができるか」を最優先に考えておられるところに共感していました。NTTアグリテクノロジー設立の背景には、自らが農業生産法人として機能し、課題解決の手段のみを提供するだけではなく、喜びや課題も含めて我々自身が農業を体感し、生産者の目線に立ちたいという想いがありました。農総研さんとは目的や想いが共通していると感じています。
小林_デジタル技術のソリューションや新たな仕組みを提供する際も、生産者や農業という産業の実情を意識することを常に心がけています。例えば、生産者の皆さんが使いこなせるものでなければ意味がありませんので、生産者の視点に立ち、自ら使ってみて「これはいける!」と確信できたものだけを提供していかなければ持続可能にはならないと思っています。デジタル化は目的ではなく手段の1つということですね。
及川_おっしゃる通りですね。そして「持続可能」という言葉が両社の共通のキーワードになっていると改めて実感いたしました。
新たな人材サービスと最先端の
テクノロジーで
農業従事者の
減少という大きな課題と向き合う
持続可能な農業の実現に向けた現在の取り組みについて教えてください。
堀内_持続可能な農業の実現に向けた問題点の1つは後継者です。弊社は2024年9月、農産業専門の人材サービス会社「やさいジョブ」を設立しました。これは、農家の直売所事業、産直卸事業を通じて課題と捉えていた農産業の人材不足解消を目的とした取り組みの1つです。対象は、生産現場だけではなく、加工、流通、小売を含むすべての求職者です。農産業を仕事にしたいと願う人々に生きた情報を提供し、募集者とのマッチングを実現します。
及川_年内には有料職業紹介事業の認可を受ける予定です。いずれは求職者に対する農産業での地方移住や独立支援なども行い、農業全体の活性化につなげていきたいと考えています。
酒井_我々は2020年4月より、東京都農林水産振興財団と連携して、ローカル5Gと超高解像度カメラ、スマートグラス、遠隔操作走行型カメラなどを活用した遠隔営農支援の実証実験を重ねています。また、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、全国農業協同組合連合会とも各々協力をして、遠隔営農支援の実用化に向けた準備を進めています。
及川_NTTe-City Labo(NTT東日本グループが地域の皆さまと進める循環型社会の実例やソリューションを体感できる施設)の視察の際に「最先端農業ハウス」でプロジェクトの概要をご説明いただきましたが、これも農産業の人材不足と向き合った取り組みですよね。農業従事者に加え、農業に詳しい専門家も減り続けることを前提とされているかと思います。
酒井_おっしゃる通りです。農業人口の減少スピードが余りにも急激のため目立ちませんが、新規就農を希望される方は、毎年一定数おられます。その方たちに弊社が提供しているのは、単収(一定面積あたりの収量・収入)や、1人あたりの経営耕地面積を拡大するテクノロジーです。しかし誰もがすぐに使いこなせる技術ではなく、我々もマンツーマンでサポートするのは現実的には困難です。そこで、遠隔で支援できる環境、仕組みづくりもスタートしました。農業の専門家が、農場の各種環境データや映像・画像を駆使して、データに基づく的確な栽培支援を行うことができます。デジタル技術を使い、1(専門家)対N(複数農場)でサポートすることが当たり前の時代が来るでしょう。
小林_就農者の方の不安を払拭することが何より大切だと考えています。遠隔営農支援についてもテクノロジーを言葉で説明するだけではなく、収支計画、栽培技術を含めた農産業の仕組みを含めて“見える化”をして、「これなら持続的な農業ができる。」と、少しでも安心感を与えたいですね。
及川_NTTアグリテクノロジーさんがおっしゃる通り、誰もが理解できる仕組みをつくること。そして、生産品目や経営方針、地域性など、生産者が持つ属性を正確に見極めてポイントを絞ってサポートすることが、提供する側のリソースも限られている中で非常に大事なことだと感じています。
高齢化や地球温暖化を
乗り越えていける農業を
「相互補完」の関係でつくりあげていく
2024年9月3日に締結した資本業務提携契約の目的や取り組みについてお聞かせください。
酒井_今回の業務提携のテーマは「相互補完」だと考えています。生産者と消費者をつなぐ独自の流通プラットフォームを持つ農業総合研究所と、NTTグループのアセットとテクノロジーで生産者をサポートできるNTTアグリテクノロジー。異なる強みを持つ両社が「相互補完」することで、生産者同士が助け合って農業を継続できる仕組みをつくることができる。これは「農業を憧れの産業にする」という信念に基づく取り組みであり、常に生産者のことを最優先に考えておられる農総研さんとなら、産業としてもビジネスとしても魅力的な農業を一緒につくっていけると思いました。業務提携には単にソリューションを提供する形もありますが、社内で議論を始めたときから今回の両社の関係性は「相互補完」がふさわしいと伝えていました。
小林_我々は通信・ICT業界から農業に参入し、会社設立からまだ歴史も浅いため、流通や小売、それらを経由した消費者とのコンタクトポイントを一から確立するのは時間がかかると思っています。そこで農総研さんの力をお借りして、生産者や流通、小売、消費者をさまざまな角度からサポートできるテクノロジーを提供して農産業に貢献させていただく、という関係性ですね。そのテクノロジーを1つの仕組みとしてブランド化するなど、お互いの企業価値を高めていきたいと考えています。
堀内_我々にとってNTTアグリテクノロジーさんは、時代を追うごとに見通しが困難になりつつある需給バランスの“見える化”をサポートしていただけるパートナーです。ちょうど農家の直売所コーナーからスーパーマーケットの青果売り場全体へと流通先を拡大しているところでしたので、ビッグデータなどを活用したAI需要予測プラットフォームを一緒につくりあげていける機会をいただいたのはうれしい限りです。技術提供という形ではなく、同じ課題を共有して一緒に手を動かして進めていくことにやりがいと喜びを感じています。
及川_需要予測のその先には、生産量、販売価格、物流量の最適化という目標もあります。中でも重要なのは物流量の最適化。生活者に一番良い形で提供できるようなサプライチェーンを考えていきたいですね。
堀内_すでにNTTアグリテクノロジーさんが取り組まれているプロジェクトの中では、先ほどから話題に上っている遠隔営農支援に親和性の高さと大きな可能性を感じます。
酒井_遠隔営農支援の取り組みは海外からも注目を集めています。少子高齢化が世界で最も進んでいると言われる日本の食糧安定供給対策に、通信インフラを整備してきたNTTグループが取り組んでいる。その点に強く興味を持っていただいているのですが、それに応えるのも使命の1つです。
堀内_少子高齢化の一方で、地球温暖化の影響によって従来の場所では農作物が育たないなどの問題も表面化しつつあります。それも、NTTアグリテクノロジーさんの統合環境制御型グリーンハウスに蓄積されるデータを分析・活用することによって、解決できるようになるかもしれませんね。農作物を育てるための最適なエリアを見つけることができれば、この先、地球環境がさらに変わっても食糧危機を乗り越えていける。これは将来的にとても大きな価値を持ちますよね。
小林_他にも、AIの画像診断による収穫量予測などの取り組みもしております。AI需要予測プラットフォームに付加価値を付けていくことも可能と思っています。まさに農業とデジタル技術の強みを生かした融合であり、両社の相互補完にもつながる部分だと思います。
酒井_地球環境の変化に対応するためのデジタルと農業の融合に加え、ぜひ農総研さんと一緒に高めていきたいのはサプライチェーンマネジメントの技術です。需給を予測するだけではなく、データを活用して不足しそうな生産、物流、販売を見つけ出す。そんな取り組みを通じて、新たな価値やビジネスモデルを創造していきましょう。そして農総研さんと一緒に、農業を憧れの産業にしていきたいと思っています。
及川_奇しくも我々同年代同士、お互いが目指す農産業の方向性も同じであることを再認識することができました。両社の持つ強みを生かしながら協働していきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
取組紹介
産直白書
今期は、「農業といえば農業総合研究所」というイメージを皆様に持っていただくため、メディア広報活動に注力し、特に農産物ごとの予測情報の発信に精力的に取り組みました。
具体的には、「円安」「豪雨」「猛暑」などの社会情勢や気候の変化を踏まえつつ、直接生産者にお会いして得た「顔が見える」安心安全な産直農産物の情報、スーパーマーケットのバイヤーの声、農産物の今年の品質傾向や価格予想、今年ブームとなりそうな新種やトレンド品種などの分析調査結果をまとめてプレスリリースとして発信しています。
その結果、テレビ・新聞・Web媒体など多様なメディアでの掲載が着実に増加し、認知形成や定着に貢献しています。
また、プレスリリースによって農産物の生産・流通における安全性や品質に関する情報を提供することで、生活者(消費者)に対して信頼性を向上させ、農産物の消費を促すことも期待しています。
この取り組みは来期以降も継続し、さらに1年間に発信したプレスリリースをまとめ、年間総括と来年予測をあわせた「産直白書」を発行する予定です。
記事紹介
新規事業「やさいジョブ」
当社は、「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」をビジョンに掲げ、日本および世界から農業がなくならない仕組みを構築することを目的に産直流通のリーディングカンパニーとして生産・加工・流通・小売と連携を図ってまいりました。昨今、多くの企業で人材不足が課題となっておりますが、農産物流通に関わる企業においても同様の課題があります。
当社は、これまで培った農産物流通における関係性をさらに強化するとともに、農産業全般(農産物流通の川上から川下まで)を対象領域とした人材サービスを提供し、人材面より当社のビジョンの実現を図るために、農産業専門の人材サービス会社・やさいジョブ株式会社を設立いたしました。
やさいジョブでは、人材不足に悩む農産物の生産現場はもとより、加工・流通・小売と農産業に関わる幅広い業種を対象に、人材をマッチングしていきます。
今後は有料職業紹介事業の認可を取得した後、事業を本格的にスタートさせる予定です。
やさいジョブ株式会社
- 本社:東京都品川区大井 1-47-1 NTビル8F(農業総合研究所東京営業所内)
- 代表取締役社長:肥田 祐希
- 設立日:2024年9月
トピックス
ハウス食品グループ本社と共同で
「スマイルボール」を販売
2023年4月のハウス食品グループ本社株式会社との資本業務提携により、辛みのないタマネギ「スマイルボール」の本格展開を開始いたしました。「プチ」と名付けた小さいサイズの「スマイルボール」ならではの魅力を発信するブランディングと、当社の全国のスーパーマーケットでの販路を生かして販売いたしました。
サステナビリティ推進室を設置
2023年7月に立ち上げたサステナビリティ検討委員会にて、サステナビリティ課題について部署横断で議論を重ね、2024年3月にサステナビリティ推進室を設置いたしました。同推進室ではサステナビリティ課題への対応方針や施策の立案、施策の進捗・実績管理、情報開示などを検討・協議し、適宜、取締役会に諮ってまいります。
流通総額が累計で1,000億円を突破
2007年の創業以来、累計での流通総額が1,000億円を突破いたしました。主力事業である「農家の直売所事業」の着実な成長、新機軸である「産直卸事業」の急成長、新たな販売チャネルであるドラッグストア等の拡大が寄与いたしました。2020年にスタートした「産直卸事業」の累計流通総額は、50億円を突破し、当社の第2の柱となっています。